夏の間に時折見かける蟻同士の戦です。
種族間の戦いなのか、それとも同種族でも巣による集団の戦いなのか。
彼らには個としての命は無いに等しい。全体としての命があるだけだ。
自分達の群と女王蟻を守るために最後の一匹が死ぬるまで戦う。
最後に巣の中で女王蟻が殺されて戦は終るのだろう。
負けた側は卵も幼虫もすべて奪われる。
数日して戦場を見ると、死んだ蟻の屍が累々と重なる。非情の世界を見ることになる。
平家物語にこんなのがあった。
殿と共に警護をしながら落ち延びていた一行が敵に見つかった。
戦いの中で殿が殺されてしまった。
一人が千人の兵に匹敵するといわれた平家の猛者も、守るべき殿がいなくなった今、
もはや闘うこともないと、口に刀をくわえて馬上から飛び降りて自害した。
後頭部に突き抜けた刃の先。さぞかし凄まじい光景に違いない。
これが「もののふ」の心なのか。
武人には自らの命は問題ではない。殿の命あっての自分なのだ。
個と全という考えだ。
蟻の戦から大きな勉強が出来た。
蟻や平家の武将を古いと思われるであろうか。
夜、家に押し込み強盗が入ったとする。世間にはよくある話だ。
個である自分自身の命を尊しとして逃げ出す亭主がえらいか、
妻や子供を守るために闘う亭主がえらいか。
これが家庭ではなく国家だったらどうだろう。
一概には結論は出るべくもないが、秋の夜長に考えても悪くはない。